メキシコW杯遠征記 06|vsメキシコ(決勝トーナメント ベスト16)

2018年11月1日(木)、これまでにない緊張感を持って目が覚めた。

この日は決勝トーナメント初戦。この試合を最後に日本に帰国することになっていた私にとって、メキシコ遠征最終戦となるこの試合の対戦相手は、開催国メキシコ。

これまでの試合とは違い、圧倒的AWAYは免れない。

日本とメキシコの対戦が決まってから、現地で仲良くなったメキシコ人たちから「どうしようか?メキシコを応援していい?笑」というメッセージが私のスマホに届いた。

そう、彼らとはグループリーグ第3戦のポーランド戦後に「決勝トーナメントも一緒に日本を応援しよう!」と声を掛け合っていたからだ。

しかし、この日ばかりは敵と味方にわかれざるを得ない。

私は「今日は別々に応援だね。日本が2-0で勝つ!」とメッセージを送り、スタジアムへと向かった。

試合会場となるメインスタジアムに到着した私は陣取るエリアを決め、そこでしばし待機をしていた。しばらくして、私はおもむろに立ち上がり周囲のメキシコ人に声をかけた。

「見ての通り、私は日本人です。日本代表を応援するために日本からサンフアンにやってきました。今日もこの場所で大きな声で日本を応援します。それと、持ってきた2つの旗を掲出したいのですが良いでしょうか?」

「あと、今日は2-0で日本が勝ちます。ですが、試合後に怒って私を殴ることだけは、やめてくださいね」

するとメキシコ人たちは大爆笑をしながら「もちろんだぜ、日本人!」と言い、旗の括り付けを手伝ってくれた。

キックオフまであと30分ぐらいになった頃には、夕焼け空は夜空になり、ガラガラだったスタジアムは超満員になった。3,000人はいるだろうか。3,000人 vs. 1人。

そして、キックオフの笛が鳴り、スタジアム全体から「Mexico!!」というコールが響き渡る中で、私は太鼓を叩きながら1人で「NIPPON!!」コールを絶え間なく続けた。

しかし、先に失点したのは日本だった。スタジアムのボルテージは最高潮に達し、私の声は掻き消されていく。

どうせ、俺の声なんか選手たちに届きやしない・・・

そんな気持ちを抱いてしまうほどの熱狂だった。

そんな時に別のスタンドの方向から「Japon! Japon! (ハポン=日本)」という声が聞こえてきた。声の主を見つけると、彼らは太鼓を叩け!というジェスチャーを私に送ってきた。

そして私が再びサポーター魂に火を灯し、大歓声に掻き消されないように「NIPPON!! NIPPON!!」とコールを再開すると、周囲のメキシコ人たちもそれに呼応するように「NIPPON!! NIPPON!!」とコールをしてくれたのだ。

その瞬間、3,000人 vs. 1人のスタジアムは、お互いの選手とファンとリスペクトしあい、サッカー愛を共有しあう美しい空間となった。

試合は、2-0のスコアで終わった。勝者は私が予想した日本ではなく、メキシコだった。選手たちが公言していた「ベスト4」という目標はここで途絶えることになった。

試合後、いつものように選手たちは私が居るエリア前まで来てくれたが、やはり足取りは重い。目に涙が光る選手たちもいた。

そのうちの1人、親友の平賀(FCアウボラーダ)は「ゴメン、勝てなかった」と言い、私は「ゴメン、勝たせる応援ができなかった」と返した。

こうして、私のメキシコワールドカップが終わった。美しい瞬間も虚しい瞬間もあったメキシコワールドカップが終わった。

わずか1週間あまりのメキシコ。この遠いメキシコの地で、ひとつのボールを追い、簡単には手に入らない結果を追い求めた選手たちを追いかけ、彼らの近くで、同じ想いを共有し合いながら、共に戦うことができた1週間は、かけがえのない時間となった。

ありがとう、アンプティサッカー日本代表。ありがとう、メキシコ。

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